七十年前の書簡体

 1月18日の本ブログで岡本好次が1935年に「新撰和エス辞典」を出したことを記した。この辞典自体いろいろとおもしろいが、今日はそこの「付録」をとりあげる。発行当初は日本の軍隊の階級のエスペラント表記といったのがあったようだが、戦後の版では消えている。「日常会話集」は(漢字が旧漢字なのを別にすれば)「Bonan tagon! 今日は」と、今でも使える。しかし、「エス文手紙の書き方と用例」となるとそうはいかない。「紹介文」で、まずエスペラント文を掲げる。これはエスペラントを学んだ方にはたいして難しくないと思う。

Mi havas la honoron prezenti al vi mian malnovan amikon, S-ron M. Saito. Mi estas tre dankema al vi por ia ajn helpo, kiun vi faros al li.

 では、この日本語文をちょっと考えてみてください。次が、この「付録」にある言い方。

小生の旧友斎藤実君を紹介申上げ候同君に対し御高庇を垂れ賜らば幸甚の至りに存じ候

そういえば、夏目漱石あたりだとこんなのがよく出てきたような気がする。エスペラント、そして日本語の口語の70年に対して、日本語の文語の70年の差、いや、これは私のもっている1960年再版当時から見て25年の差、は大きい気がする。