16カ条文法と、その第12条

エスペラントの16カ条文法

 エスペラントには通称16-regula gramatiko/16カ条文法というのがある。たしかに、1887年にエスペラントが船出する際には有効なキャッチフレーズだったろう。ロシア語、ポーランド語、フランス語、ドイツ語、英語の5言語で出た。これはAkademio de Esperanto次のところで読める。これらは、同じ事を言っていても、相互に直訳ではない要素がある。また、各言語版でエスペラント文の用例がついていたり、いなかったり、ついていても異なる用例だったりする。いずれも、その言語を知っている人のためである。この文法のエスペラント訳はいくつかあるが、もっとも普及しているのが"Fundamenta Krestomatio"(直訳すると「基本模範文集」)という1903にのっているエスペラント版であるが、これは例文は全てなくなっている。そのほかにもWaringhien(バランギャン)校訂版など何種類かある。
 日本語訳もいくつかあり、ネットでも見られる*1

第12条は。。。

 その中でも、分かりにくいのは第12条と思う。まず、Fundamenta Krestomatio版とその私訳を示す。

  • Ĉe alia nea vorto la vorto ne estas forlasata.
    • 他に否定語があれば ne は省略される。

 これに対し、私が各言語版をもとに意訳して新たに作ったものと、その訳とを次に示す。

  • Por esprimi neon, uzu nur unu nean vorton; ĉu ne aŭ alia, ekzemple korelativa nea vorto: "Mi neniam vizitis tien.", sed NE: "Mi neniam ne vizitis tien."
    • 否定を表すためには、否定語は一つ。たとえば、ne か相関詞の否定詞があるなら、その片方だけを使う。「私はそこへ言ったことがない」は Mi neniam vizitis tien. であり、Mi neniam ne vizitis tien. ではない。

 実は、ポーランド語、ロシア語などの全否定の文は、エスペラントに直訳するとMi neniam ne vizitis tien.と否定の語が2つ重なることがあるが、そのように言ってはいけない、ということだ。そのように言う習慣があるからこその12条である。

二重否定はある

 この第12条は時に「二重否定の禁止」と呼ばれるが、それはあっていない。ふつう、「二重否定」というと、「・・・でなくはない」=「あることはある」のように肯定の意味になる。このような言い方はある。

  • Mi ne povis ne koleri pri tio.
    • 私はそのことに怒らないでいることができない。

*1:例1:伊東三郎版をイーハトーヴ・エスペラント会が載せたもの。例2:イッシーのページのもの。例3:いんみ〜の部屋にある、用例を独自に配したものの、など